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IFRSの基本 連載第26回:公正価値測定

【有限責任監査法人トーマツ IFRSアドバイザリーグループ シニアマネジャー 公認会計士 和泉 嘉人氏】

前回から最近公表されたIFRSの新基準に関する解説を行なっていますが、今回は2011年5月に公表された新基準、IFRS13「公正価値測定」(以下、本基準という。)について概要等をご紹介します。なお、本基準には特に金融業に重要な影響を及ぼす論点が含まれていますが、実務上の対応については一般事業会社の経理実務を念頭においてご説明します。

1.本基準の背景と概要

例えば、IAS第40号「投資不動産」が投資不動産に公正価値による評価を要求するように、複数のIFRSが資産等を公正価値で測定することを要求していましたが、各IFRS間において公正価値に関する規定が整合しているとは言えず、実務における多様性の一因にもなっていました。そこで、IASB(国際会計基準審議会)はFASB(米国財務会計基準審議会)とのコンバージェンス・プロジェクトの一環として、公正価値測定に関する単一のフレームワークを提供する本基準を開発しました。

本基準は、公正価値を定義し、公正価値測定のフレームワークを確立するとともに、公正価値測定に関する開示を規定しています。すなわち、本基準は、どのような場面で公正価値測定が要求されるかどうかを規定するものではなく、他のIFRSが公正価値測定や開示を要求した場合に、公正価値がどのように測定され、開示されるかの指針を提供するものになります。従って、以下では、本基準の適用範囲を明確にしたうえで、3要素(公正価値の定義、測定、開示)について具体的にご説明します。

なお、本基準は2013年1月1日以降開始する事業年度から適用されますが、早期適用も認められます。

2.本基準の適用範囲

(1)原則

本基準は、他のIFRSが公正価値による当初測定及び事後測定を要求又は許容する際に適用されます。また、公正価値測定に関する開示を要求又は容認する際にも適用されます。

(2)例外

(1) 測定及び開示
例えば、IFRS第2号「株式報酬」の対象となる株式報酬取引等には、本基準の測定及び開示の要求は適用されません。
(2) 開示
例えば、IAS第19号「従業員給付」に従って公正価値で測定された制度資産には、本基準の開示の要求は適用されません。

3.公正価値の定義

(1)内容

本基準では、公正価値を、「測定日において、市場参加者間で秩序ある取引が行われた場合に、資産の売却によって受け取るであろう、又は負債の移転のために支払うであろう価格」と定義しています。なお、「秩序ある取引」とは、「通常かつ慣習的なマーケティング活動ができるように、測定日以前の一定期間、市場に晒されていることを前提とした取引で、強制された取引(例えば、強制清算や投売り)ではない」と定義されています。

(2)実務上の対応

後段の「資産の売却によって受け取るであろう、又は負債の移転のために支払うであろう価格」は、本基準で出口価格と定義されているとおり、対立概念の入口価格(資産を取得するために支払う、または負債を引き受けるために受け取る価格)を想起すれば、実務上の適用にそれほど困難はないと思われます。一方、前段の「市場参加者間で秩序ある取引」については、例えば取引が少ない金融商品の公正価値測定において、実務上の適用に困難が生じる局面もあり得ると考えます。

4.公正価値の測定

(1)内容

前述の通り、本基準では公正価値をいわゆる市場価格と定義しているため、一般的な市場が存在することが少ない非金融資産や、市場が存在しても取引が少ない、あるいは市場が存在しない資産等の測定について、算定方法の指針を示す必要があります。

本基準では、前者(非金融資産)については、「最有効使用」という指針を示しています。「最有効使用」とは、その価値を最大化するであろう使用と定義されているため、例えば土地であれば、法的に認められる用途の中でその価値を最大化する用途を想定して公正価値を測定することになります。

また、後者(市場が存在しても取引が少ない、あるいは市場が存在しない資産等)については、公正価値を見積もる際の評価技法の指針を示しています。評価技法としては、マーケット・アプローチ(類似資産等の市場価格を調整)、コスト・アプローチ(資産等、特に固定資産の再調達原価を調整)、インカム・アプローチ(将来キャッシュ・フローの割引現在価値等)の三つが示されています。さらに、これらの評価技法に用いる入力数値(インプット)についても、観察可能なものを極力用いるように推奨されており、観察可能なものの例として、外国為替市場が挙げられています。

(2)実務上の対応

まず、「最有効使用」については、(他の使用法がより資産価値を最大化することが示唆されていない限り)現在の使用が最有効使用と推定されることとされているため、実務上問題になる局面は少ないと考えられます。また、後者については、非上場株式の公正価値測定が実務上の問題になることが考えられます(詳細は、本連載第15 回:IFRS導入の影響―金融商品会計(その1)をご参照ください)。

5.公正価値に関する開示

(1)内容

公正価値の開示としては、「公正価値測定のために用いられる評価技法及び入力数値(インプット)」及び「重要な観察不能な入力数値(インプット)を用いる公正価値測定が利益に及ぼす影響」を財務諸表利用者が評価するために役立つ情報の開示が求められています。

(2)実務上の対応

従来から開示されている公正価値の定量的な開示(有価証券の時価等)に追加して、「公正価値測定のために用いられる評価技法及び入力数値(インプット)」の開示として、例えば非上場株式の公正価値をインカム・アプローチで測定している場合、(将来キャッシュ・フローを割り引くための)加重平均資本コストの開示が必要になります。この例として挙げた「加重平均資本コスト」は、一般的に「重要な観察不能な入力数値(インプット)」に該当するので、例えば加重平均資本コストが上昇した場合に、公正価値測定額が低下することになる旨の開示も、必要になります。

6.日本基準の動向

公正価値に関するコンバージェンスの観点から、2009年8月に企業会計基準委員会(以下、ASBJという。)より「公正価値測定及びその開示に関する論点整理」が公表され、2010年7月に同じくASBJより、「公正価値測定及びその開示に関する会計基準(案)」及び「公正価値測定及びその開示に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、両者を併せ本公開草案という。)が公表されました。本公開草案は、2011年6月の最終基準化が予定されていましたが、本原稿執筆時点(2011年8月4日)で、最終基準は公表されていません。

第27回に続く

文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

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