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IFRSの基本 連載第25回:連結財務諸表

【有限責任監査法人トーマツ IFRSアドバイザリーグループ マネジャー 公認会計士 信澤 康一氏】

前回迄で「IFRS 導入プロジェクトの進め方」は終わり、今回から最近公表されたIFRSの新基準に関する解説を行います。

今年5 月に、連結関係の新基準が公表されました(IFRS10「連結財務諸表」、IFRS11「ジョイント・アレンジメント」、IFRS12「他の企業に対する持分の開示」)。これらは、連結財務諸表やジョイントベンチャー等が別個の基準となっていたものを包括的に 整理して基準化したものですが、今回はこの内、IFRS10「連結財務諸表」の主な改訂論点についてご説明致します。

1.概要

連結財務諸表作成に際し、親会社が「支配」している会社(典型的なのは子会社)が対象範囲となりますが、今回の改訂論点の内、一番大きいのは「支配」の概念の変更です。

旧基準(IAS27)では、「支配」とは「企業活動からの便益を得るために、その企業の財務方針・営業方針を左右する力」であると定義されていましたが、新基準(IFRS10)では、「投資企業は以下の3 つの要素を全て保持する場合に被投資企業を支配している」としました。

(1)被投資企業に対するパワー

(2) 被投資企業への関与からのリターンの変動性に対するエクスポージャー又は権利

(3) 被投資企業に対するパワーを、投資企業にとってのリターンの変動の金額に影響を与えるために使用する能力

旧基準は(1)のみでしたが、新基準では(2)(3)も加わりました。つまり、パワーがあるだけでは支配しているとは言えず、リターンが存在し、かつ、リターンを得るためにパワーを行使する能力があって初めて支配していることになりました。

以下、3要素について具体的にご説明します。

2.パワー

(1)旧基準との関係

旧基準では、「親会社がある企業の議決権の過半数を直接的/間接的に所有している場合には、例外的な状況を除いて、支配が存在していると推定され」、また、「親会社がある企業の議決権の過半数を所有していない場合であっても、以下の場合には支配が存在する」として、取締役会等の経営機関の構成員の過半数を選任/解任する力を有する場合等、いわゆる実質支配力基準(又は事実上の支配)により判定するとなっていました。

尚、日本基準でも議決権が過半数以下の場合に同様の実質支配力基準となっていますが、IFRSと異なり、数値基準を用いて議決権の40%以上50%以下を自己の計算において所有している場合が検証対象となっています。

これに対し、新基準では旧基準同様に実質支配力基準を採用していますが、実質判定の際に、投資企業だけでなく他の株主が保有する議決権(潜在的議決権を含む)も考慮する必要があるのが主な変更点です。なお新基準においても日本基準のような数値基準はないため、引き続き日本基準と連結の範囲が異なる可能性があります。

(2)他の議決権保有者の規模、分散の程度、過去の投票パターンを考慮する

例えば、議決権の48%を保有していたとしても、残り52%の議決権の内訳により、パワーの判定が大きく異なります。

(1) 1 人が35%保有し、もう1 人が17%保有
(2) 52%を多数の株主がそれぞれ1%未満保有

(1)の場合は、状況によっては35%保有している株主がパワーを有している可能性がありますが、(2)の場合は、他の株主がパワーを有している可能性は殆ど無いと思われます。

(3)実務上の対応

持分割合が低い場合はパワーを持っていない可能性が高いと思われるため、まずは持分割合が一定以上(例えば30%以上)の会社から連結範囲の検討を始めるのが効果的だと思います。

3.リターン

(1)内容

連結の評価における2番目の規準は、投資企業が被投資企業の変動し得るリターンに対するエクスポージャーまたは権利を有することであり、正負のいずれもありうることを明確にするために「便益」ではなく「リターン」という用語を使用しています。

リターンの例としては、当該企業に対する投資の価値の変動、ストラクチャード・エンティティのキャッシュ・フローに対する残余持分、配当、利息、管理報酬またはサービス報酬契約、保証、税務上の恩恵、または他の持分保有者が得られない他のあらゆるリターンが含まれる可能性があります。

例えば、海外子会社に投資したものの業績が悪く、毎期赤字を計上している場合は、便益は生じていませんが、リターンは正だけでなく負の場合も含むため、この場合は支配していることになります。リターンが負のため支配から外れ、連結除外できてしまえば、連結上の業績は一見良くなりますが不合理である点からも納得できると思われます。

(2)実務上の対応

まずはリターンとしてどの様なものが挙げられるか、検討する必要があります。

配当が典型的ですが、「そもそも当該子会社に投資しているのはどの様なリターンを得るためか」を改めて検討するのも有益であると思われます。

また、リターンの絶対値が少額である子会社をピックアップし、その原因を究明すると共に、リターンの変動性に対するエクスポージャー又は権利を有するかどうかを検討するのも一案であると思われます。

4.パワーの行使能力

(1)内容

パワーを有し、リターンも生じている場合であっても、両者がリンクしていない場合は、支配していないということになります。つまり、被投資企業に対するパワーを被投資企業への関与からの投資企業のリターンに影響を与えるように使用する能力をも有していなければなりません。

新基準上は「投資企業が意思決定権を有していたとしても、投資企業が代理人であり、委任された範囲で意思決定権を行使するのみである」例とともに、意思決定権を持つ企業が本人か代理人かを評価するガイダンスが記載されています。

(2)実務上の対応

本人と代理人のどちらとして意思決定権を行使しているのかの判定は容易であると思われます。但し、金融機関等で、ファンドマネジャーやアセットマネジャーである場合は、留意が必要と思われます。

4.まとめ

(1)内容

今回の連結財務諸表基準改訂の趣旨は、一言で言うと「より厳密な実質支配力基準の運用」にあると思われます。

この結果、日本基準と比較して(1)支配の要素として、パワーだけでなく、リターンやパワーの行使能力が含まれ、(2)連結判定のプロセスとして議決権比率をスタートしないこととなる点がGAAP差となりました。

また、改訂後の基準では、パワー・リターン・パワーの行使能力の3要件を検討することにより、パワーが存在するものの機能していない場合は支配していないということになり、パワーの運用状況の検討が必要となりました。

検討の結果、新基準上連結の範囲が広がるか否かは検討の結果次第だと思いますが、連結の範囲の検討を行いつつ、投資目的を再確認し、当初の目的を達成しているか否かを検討することになるため、投資意思決定に関する経営判断にも寄与することが期待できると思われます。

第26回に続く

文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

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