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IFRSの基本 連載第12回:IFRS導入の影響-退職後給付(その2)

【有限責任監査法人トーマツ IFRSアドバイザリーグループ マネージャー 米国公認会計士 岸本 幸治郎氏】

前回(第11回)に引き続き、退職後給付に関する日本基準とIFRSの主な差異4項目のうち3.未認識数理計算上の差異の処理方法と4.未認識過去勤務費用の処理方法について述べていきます。また、今回は、両会計基準の最新の改訂動向や新しい会計処理の方向性についても、ご紹介します。

4.未認識数理計算上の差異及の処理方法

(1)IFRSと日本基準の差異

日本基準では、各年度の数理計算上の差異の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額(即時費用認識を含む)を費用処理する必要があります。

一方、IFRS では、IAS 第19号において、適正な基礎率を適用して算定された数理計算上の差異の累計額が一定の範囲内(未認識数理計算上の差異の正味累計額について確定給付制度債務の現在価値又は制度資産の10%)に収まっている場合、これらを損益として認識しないこととしています。この一定の範囲内をコリドー(「回廊」)と呼び、コリドーの超過分を平均残存勤務期間で割った金額を損益として認識します。この会計処理は、コリドー・アプローチと呼ばれています。コリドーを超えて発生した数理計算上の差異は、不可避に生じる通常の数理計算上のばらつきとは認められず、損益計算の対象とするとともに必要に応じて基礎率の見直しを検討します。

また、上述のコリドー・アプローチ以外に、純損益で即時認識を含むより早期に認識する結果となる規則的な方法や、数理計算上の差異をその他の包括利益として、発生時に全額即時認識する方法も選択可能です。なお、その他の包括利益として認識された数理計算上の差異は、直ちに利益剰余金に振り替え、その後の期間で償却を通じて純損益に振り替えることはできません。

(2)実務に与える影響

未認識数理計算上の差異について、IAS 第19号では、より早期に数理計算上の差異を認識する結果となる方法が許容されているため、日本基準に準拠した数理計算上の差異の方法はおおむね適用することが可能であると考えられます。そのため、現行のIFRSを適用した場合の実務に与える影響は限定的と考えられます。ただし、日本基準とIFRSの両会計基準で見直しが行われており、未認識数理計算上の差異を即時認識する方向で議論が進んでいます(後述の「6.最新動向」をご参照ください)。一般的に社歴が長く、従業員の多い会社には、多額の未認識の数理計算上の差異及び過去勤務費用を抱えている企業も多く、未認識数理計算上の差異及び過去勤務費用の遅延認識が廃止された場合、純資産を大きく棄損する事が想定され、債務超過に陥る会社が出てくるかもしれません。最新の改訂動向を注視しながら、実務的に必要な対応の検討を進めていくことが肝要であると考えられます。また、投資家の視点から考えると、未認識債務が即時認識される方向で議論が進んでいることは評価すべきことと考えられます。これまで注記情報から把握していた未認識の債務が貸借対照表に即時認識される意義は大きいと考えられます。

5.未認識過去勤務費用の処理方法

(1)IFRSと日本基準の差異

IFRSでは、受給権が確定していない過去勤務費用は、給付の権利が確定するまでの平均期間にわたり定額法で償却し、損益計算書に計上します。受給権がすでに確定している分については、即時に費用処理します。

一方、日本基準では、原則として各期の発生額について従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用として処理します。この一定の年数での規則的な処理には、即時償却も含まれます。なお、受給権が確定した過去勤務費用に関する規定はありません。

(2)実務に与える影響

現行IFRSを適用した場合、日本の制度において発生する過去勤務費用の大部分は即時認識が要求されることになると考えられます。その結果、前項「4.未認識数理計算上の差異の処理方法」の記載と同じく、純資産に対してネガティブな影響が考えられるため、最新の動向を注視しながら、必要な対策を検討していくことが望まれます。

6.最新動向

IASBは、2010年4月29日にIAS第19号「従業員給付」の修正を提案する公開草案「確定給付制度」を公表しており、同公開草案に対するコメントを、2010年9月6日まで募集しています。IASBは、短期的な目的として確定給付制度の会計処理の改善をターゲットとしています。IASBは、この公開草案での提案により、以下の点でベネフィットがあると述べています。

・確定給付制度債務の帳簿価額の変動及び制度資産の公正価値変動を、より理解しやすい方法で報告する。
・IAS第19号で現在認められている表示に係る選択肢の一部を削除することにより比較可能性を改善する。
・実務においてばらつきを生んでいる規定について明確化する。
・企業が確定給付制度に関与することによって生じるリスクについての情報を改善する。

今回の公開草案は、2008年3月にIASBよりディスカッション・ペーパー「IAS第19号の改訂に係る予備的見解」に寄せられたコメント・レターを考慮した内容となっており、IASBのプロジェクト工程表(2010年7月1日付)によると、2011年の1月から3月の間に最終基準化される予定となっています。

割引率については、2009年8月にIASBから公開草案「従業員給付の割引率」が公表され、国債の利回りを使用する規定を削除する提案が行われていました。しかし、退職後給付会計における割引率についての本格的な議論がなされないまま、緊急避難的に対応することへの批判や、予想以上に複雑な論点を引き起こすことが懸念されたため、2009年10月に当面この修正を行わないことが決定され、IASBのプロジェクト工程表からも削除されています。

一方、日本基準では、企業会計基準委員会(ASBJ)が、2010年3月18日付で「退職給付に関する会計基準(案)」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針(案)」を公表し、2011年4月1日以後開始事業年度の年度末に係る財務諸表からの適用が提案されています。ただし、退職給付見込額の期間帰属及び割引率に関する定めについては、2012年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用となっています。これは、新たな年金数理計算のために一定の準備期間を要するという意見があったことからです。

最後に両会計基準の公開草案が、今回と前回でご紹介したIFRSと日本基準の主な差異4項目に与える影響について記載します。

IFRSでは、数理計算上の差異及び権利が未確定の過去勤務費用の遅延認識が認められなくなります。また、当期勤務費用、過去勤務費用及び確定給付負債(資産)の純額に係る利息の純額からなる財務費用が純損益に認識されます。現行の数理計算上の差異に近い概念である確定給付負債(資産)の純額の再測定は、その他の包括利益に表示され、直ちに利益剰余金に振替えられ、その後の期間に純損益に振替えることは禁止されます。

日本基準では、退職給付見込額の期間帰属方法について、期間定額基準と給付算定式に基づいて給付額を期間帰属させる方法の選択適用が認められることになります。割引率は、退職給付の見込支払日までの期間ごとに設定された複数のものを原則として使用することになりますが、実務上は、給付見込期間及び退職給付の金額を反映した単一の加重平均割引率を使用することができると考えられます。また、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の貸借対照表上の即時認識が提案されています。ただし、即時認識に伴う損益の表示については、引き続き検討される予定です。
第13回に続く

文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

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