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IFRSの基本 連載第11回:IFRS 導入の影響-退職後給付(その1)

【有限責任監査法人トーマツ IFRSアドバイザリーグループ シニアマネージャー 公認会計士 曾宮啓介氏】

今回(第11回)と第12回では、退職後給付に関する日本基準とIFRSとの違いについてご紹介します。
なお、「退職後給付」を含む用語について、本稿では企業会計基準委員会監訳のIFRSの日本語訳で使用される訳語を使用します。

退職後給付は、IFRSでは、IAS第19号「従業員給付」で、雇用関係の終了後に支払われる従業員給付(解雇給付を除く)と定義されており、以下の例が挙げられています。

・年金等の退職給付
・退職後生命保険及び退職後医療給付のようなその他の退職後給付

また、退職後給付制度は、確定拠出制度又は確定給付制度の2つに分類されますが、「確定給付制度による年金等の退職給付」に範囲を絞って、主な差異と実務に影響を与えると思われる項目について述べていきます。

なお、現在、日本基準とIFRSの両会計基準の見直しが、それぞれ進められています。
そのため、最初に現行の日本基準とIFRSの違いについて解説した後、次回に最新の改訂動向や新しい会計処理の方向性についてご紹介します。

1.日本基準とIFRS の主な差異

現行の日本基準とIFRS における主な差異として、次の項目を挙げることができます。

(1) 退職給付見込額の期間帰属方法

(2) 割引率の設定方法

(3)未認識数理計算上の差異の処理方法

(4)未認識過去勤務費用の処理方法

今回は、これらのうち(1)退職給付見込額の期間帰属方法及び(2)割引率の設定方法について取り上げ、(3)未認識数理計算上の差異の処理方法及び(4)未認識過去勤務費用の処理方法については、次回にご紹介します。

2.退職給付見込額の期間帰属方法

(1)IFRSと日本基準の差異

日本基準では、退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準により各期間に帰属させることが原則となっています。また、一定の場合にのみ、次の3つ方法の選択が認められています。

■給与基準

■支給倍率基準

■ポイント基準

一方、IFRSでは、原則として給付算定式に基づいて給付額を期間帰属させる方法が適用されます。ただし、勤務期間の後半に前半に比べ著しく高い給付を行う場合は、例外的に制度上の重要な追加的給付をもたらさなくなる日まで均等配分により期間帰属(期間定額基準を適用)させます。

(2)実務に与える影響

日本基準では退職給付見込額を期間定額基準で各期間に帰属させることが原則とされるため、制度及び算定方法によっては、IFRSに準拠して算定した確定給付制度債務の現在価値と異なることが考えられます。期間帰属方法は確定給付制度債務の現在価値や当期勤務費用を算定する過程で必要となる考え方であり、日本基準からIFRSへの変更に伴う影響を算定する場合、通常、計算受託機関や外部の年金数理専門家等に依頼する必要が生じます。
退職給付制度は、連結グループ内の多くの会社が有しており、IFRSの適用に向けて、早期の検討に入ることが望まれます。

3. 割引率の設定方法

(1)IFRSと日本基準の差異

IFRSと日本基準の両基準ともに、確定給付制度債務の現在価値や当期勤務費用を算定する際に、割引率を設定して期間帰属後の退職給付見込額を割り引きます。
IFRSでは、この割引率について、期末における退職後給付債務の予想期間と整合する期間の優良社債の利回りを参照して決定しなければなりません。ただし、優良な社債に厚みがある市場が存在しない場合においては、国債の利回りを使用します。つまり、採用する割引率の優先順位が規定されています。
一方、日本基準では期末における安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として割引率が決定されます。この安全性の高い長期の債券の利回りとは、国債、政府機関債及び複数の格付け機関よりダブルA格相当以上を得ている優良社債とされています。また、ここでの長期とは、退職後給付の見込支払日までの平均期間を原則としていますが、実務上、従業員の平均残存勤務期間に近似した年数とすることも可能であり、典型的な日本の企業であれば、後者により割引率を設定していると考えられます。
以上の通り、割引率の設定に際して、採用する割引率の優先順位の有無、また、退職後給付債務の予想期間に整合させるか否かにおいて、IFRSと日本基準で差異があります。
なお、日本基準では、割引率の変更の要否について重要性基準があり、前期末に用いた割引率により算定された確定給付制度債務の現在価値と比較して、期末の割引率により計算した確定給付制度債務の現在価値が10%以上変動しない場合には、割引率を変更する必要がないことになっています。IFRSでは日本基準のような重要性基準の考え方はありません。

(2)実務に与える影響

上述の通り、IFRSを適用した場合には、割引率の設定に関する考え方を見直す必要があり、また、日本基準で認められている重要性基準の考え方がIFRSにはなく、毎期割引率を見直すことになります。割引率の設定に関して手続が複雑化する可能性があるため、早期に対応を検討することが望まれます。


(第12回に続く)

文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

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