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IFRSの基本 連載第3回:IFRS導入の影響-収益(その1)

川井 圭介氏

有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 公認会計士

今回(第3 回)から第5 回までは、日本基準とIFRS の収益認識規準の違いについてご紹介します。

1.日本基準とIFRS の主な差異

現行の日本基準とIFRS の収益認識規準における主な差異として、次の項目を挙げることができます。
(1)総額表示と純額表示
(2)収益認識時点(物品の販売)
(3)取引の識別(複合取引)
(4)カスタマー・ロイヤルティ・プログラム
今回は、これらのうち(1)、(2)、(3)について取り上げ、(4)については次回(第4 回)にご紹介します。また第5 回では収益認識規準の変更が情報システムに及ぼす影響について考えていきます。

今回(第3 回)から第5 回までは、日本基準とIFRS の収益認識規準の違いについてご紹介します。

2.総額表示と純額表示

(1)IFRS と日本基準の差異

日本基準では、企業会計原則における「総額主義の原則」、ソフトウェア取引における実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」が存在するものの、基本的には総額表示・純額表示を判断するための詳細な会計基準がありません。そのため、それぞれの業種ごとに実務慣行を斟酌した様々な会計処理が行われているのが実情となっています。

これに対してIFRS では、一定の販売取引において企業が販売取引の当事者(本人当事者といいます)として行動しているのではなく、代理人として行動している場合があることを規定しています。このような場合は、当該企業は手数料のみを収益認識する(すなわち収益を純額表示する)ことが求められます。一方、企業が本人当事者として行動している場合には、当該企業は総額表示で収益認識を行うことになります。

企業が本人当事者として行動しているか、あるいは代理人として行動しているかの判断を行うにあたっては、IAS 第18 号「収益」の付録の設例21 において下記の詳細な判断規準を記載しています。

i) 本人当事者
以下の4つの項目のいずれか(又はこれらの組み合わせ)が、企業が本人当事者として取引を行っている場合の特徴です。

(a) 物品又は役務を顧客に提供する、或いは注文を履行する主たる責任を負っている

(b) 在庫リスクを負っている

(c) 直接的又は間接的に価格を設定する裁量がある

(d) 顧客からの債権に関する与信リスクを負っている

ii) 代理人
企業が代理人として行動している場合の特徴の一例として、取引における企業の収益が、取引毎の固定料金、あるいは顧客に対する請求額の一定割合として事前に定められていることが挙げられます。

(2)実務に与える影響

このように、IFRSでは販売取引を行う企業が本人当事者として行動しているか、あるいは代理人として行動しているかによって収益認識方法が異なります。
これによって大きな影響を受ける可能性のある業種として流通業が挙げられます。例えば卸売業や小売業の場合、自社が在庫リスクや与信リスクを負わない形で仕入販売を行っており、これを総額で売上計上しているとすれば、IFRSの下では純額表示を求められ、連結財務諸表に表示される売上高が減少する可能性があります。特に百貨店業界では、店頭に陳列された商品が顧客に販売されて初めて仕入を計上する販売形態(いわゆる「消化仕入」)が実務慣行として定着しており、日本基準ではこれを総額で収益計上してる場合があるため、IFRS導入によって売上高が大きく減少する可能性があります。

3.収益認識時点(物品の販売)

(1)IFRS と日本基準の差異

日本基準では、収益は「実現主義の原則」の要件を満たした時点で認識することとされています。どのような場合に当該要件が満たされるかについて、詳細な規定はありません。実務上は、物品の販売においては多くの場合、物品の出荷時点で収益を認識しています(いわゆる出荷基準)。
一方でIFRSでは、日本基準よりも詳細な規定を設けています。物品の販売からの収益に関しては、次の条件のすべてが満たされたときに認識することになります。

(a) 物品の所有に伴う重要なリスクと経済価値が買手に移転したこと

(b) 企業が、販売された物品に対する継続的な管理上の関与も実質的な支配も保持していない

(c) 収益の額を信頼性をもって測定できる

(d) 経済的便益が企業に流入する可能性が高い

(e) 関連して発生した又は発生する原価を、信頼性をもって測定できる

(2)実務に与える影響

日本基準の下で実務上広く採用されてきた出荷基準は、上記のIFRS における収益認識要件を必ずしも満たさない場合があることが想定されます。このような場合、IFRS においては日本基準と異なる時点で収益を認識する必要があります。
IFRS における収益認識時点に関する情報は、現状の業務プロセスにおいて把握されていない可能性があります。例えば、IFRS では販売先での検収完了時に収益認識されるとした場合、検収完了日の情報を入手する必要があります。このような場合は、販売業務に関する業務プロセスや情報システムの変更を含めた対応策を検討する必要があります。

4.取引の識別(複合取引)

(1)IFRS と日本基準の差異

IFRSでは、収益認識規準は通常は個々の取引ごとに適用されますが、場合によっては取引の実質を反映するために、単一取引の個別に識別可能な構成部分ごとに収益認識規準を適用することが求められます。このような取引を複合取引といいます。例えば、製品の販売契約を締結し、その契約の中に識別可能なアフターサービス等の別のサービスが含まれている場合、製品販売による収益とアフターサービスによる収益は別個に認識する必要があります。このような場合、アフターサービスによる収益は、サービス提供期間にわたって認識することとなりますので、従来の日本基準と比較して収益を繰延べる結果となります。
IFRSでは、このような複合取引に関する規定が定められていますが、日本基準ではソフトウェアや工事契約といった特定の取引以外には、複合取引を取扱う会計基準は存在しません。

(2)実務に与える影響

複合取引を経常的に行っている企業では、個別に識別可能な構成部分ごとに収益認識規準を適用し、これらの構成部分に収益額を配分することが必要になります。従来の日本基準の下での会計実務では、このような作業は行われていませんので、これに関する業務プロセスを検討しなければなりません。

5.最新動向

日本基準では、2011年に収益認識に関する公開草案が公表される予定ですが、最終基準化の時期は未定となっています。
IFRSでは、2008年12月にIASBよりディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」が公表されました。この中では収益認識に関する新たなフレームワークが提案されています。これについては2010年第2四半期(4月~6月)中に公開草案を公表し、2011年前半に最終基準化される予定です。

文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。

(第4回に続く)
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